Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

コレペティ入門~導入編

まずコレペティの練習をするのには何から弾き語ればいいか。とりあずは無理せず簡単なものから、要するにソロ=アリアがいいだろう。やはり最初は演奏難易度の低い=弾くことが負担にならないものから始めることが望ましい。


ピアノが難しくなく、行き語りの基礎=導入によさそうなアリアを以下にいくつか上げてみる。尚、上げるものの選び方としては、最初の練習にちょうどいい難易度を考えつつ、後にコレペティ課題的に役に立つであろうレパートリーから考えたものである。


W.A.モーツァルト
”フィガロの結婚”より、
伯爵夫人のアリア Porgi amor
”魔笛”より、
タミーノのアリア Dies Bildnis bezaubernd schoen


G.ヴェルディ
”椿姫”より、
ジェルモンのアリア Di Provenza il mar


G.プッチーニ
”ラ・ボエーム”より、
ミミのアリア Si, mi chiamano Mimi


まずはこの辺から試してみるといいと思われる。


モーツァルトはテンポも変わらずピアノも極めて難易度的負担がなく、旋律も比較的分かりやすい。伯爵夫人の方はフェルマータ以外はテンポが変わらない。タミーノの方はブレスが難しいアリアだが、逆に弾く難しさがない分そういった歌手の都合を考えるのに最適な課題と言える。ヴェルディのジェルモンのアリアも、一部時間を取るところはあるものの基本テンポは一つ、弾くことも全く負担にはならないので、歌手の旋律を聴く&考えるいい練習になる。プッチーニのミミのアリア、これはこの中で唯一テンポが何度も変わるが、前の3曲の応用編として上げてみた。テンポの変わり目、ブレスの取り方、それらを考えながら弾くことで歌手の呼吸と色の付け方がよく学べる。ピアノ自体は決して難しくないが、しかしそれらを考えながら弾くと音楽的な意味で簡単ではない。全てにおいていい課題と言えよう。


ここに上げたものはごく一例、その他にも似たような導入に最適な課題はいくつまるだろう。ただここに上げた演目はコレペティ的には後に最重要課題になって来るレパートリーなので、是非お勧めしたい。




コレペティ入門~まずはじめに

最近このブログの本題であるコレペティ的内容から外れていることが増えてきたので、ここで一旦原点に戻ることにする。というわけで、コレペティ入門と題して、これからコレペティの勉強(実践)のやり方を説明して行く。というのも、ここで何度も書いているように日本ではまだまだコレペティというものが正しく認知されておらず、興味持ったところで何をどうしていいのかが分からないからである。指導者できるものもわずか、教育機関はない、ゆえに自分の経験とノウハウが少しでも多くの方々に役立てれば幸いである。


というわけで、今日は”まずはじめに”ということで、改めてコレペティについて説明する。そして導入的なことまで書ければと思う。


コレペティとはオペラの現場で指揮者がピアノを弾きながら歌手に稽古をつけるというのが本来の原型である。当然毎回の練習にオケを入れられるわけないので、指揮者がオケをピアノで代用するというシチュエーションである。そして音楽練習の最初の段階から立ち稽古に入るまでの段階が主にこれである。まずは譜読み的なことからはじまり、次第に音楽作りとなって行き、最後は暗譜というわけである。ヨーロッパの劇場の場合、指揮者とは別に専任のコレペティトアが存在する。又は指揮者とコレペティトアを兼任という役職も存在する。その配置や人数などは劇場によって異なる。


言葉についてだが、コレペティというのは日本人が略して言っている言葉である。これは本来ドイツ語のKorrepetitorから来ている。さらにこれの元はKorrepetitionである。日本語で言うコレペティ(をする)という練習はこのKorrepetitionにあたる。それを実践する者をKorrepetitorと言う。そしてこの言葉には元々、覚えさせるという意味がある。要するに、歌手に歌うパートを練習して覚え込ませる的な部分であろう。


このようにコレペティトアは劇場の音楽チームに属する、言わばコーチやトレーナーみたいなものであり、指揮者のアシスタント的立場にある。ゆえに内容的には極めて指揮者的であり、あくまでピアノを弾きながら(利用しながら)行うわけであり、ピアノを弾く(演奏する)人種ではない。したがってコレペティトアは裏方の人種であり演奏家ではない。当然ピアノの実力派ピアニストに求められるものとは全く異なり、むしろ要領や対応力などが強く求められる。例えば、テンポがはまらない歌手へは左手で伴奏のリズムをはっきり出してやり右手は省くとか、旋律の音程が不確かな場合は右手は旋律を一緒に行き装飾的なものを省いて音を分かりやすく弾いてやるとか、さらにはフルスコアから練習により効果的な音を拾ってやるとか、などなど。要するにピアノを弾くのではなく、あくまでオケを代用しつつ歌手の為に対応しているわけである。ゆえにピアニスト(演奏家)ではないので、コレペティトアに興味を持ち志す場合はまず最初にその辺を認識すべきである。でないと、しばらくしてそんなはずじゃなかったとなってしまう。ピアノ科的な要素はここでは通用しないわけである。ピアにスティックな能力は、むしろその対応力等にうまく応用できれば逆にそれは素晴らしいコレペティの能力になり得るので、ピアノ科出身は是非そうして頂きたいと思う。


そして導入、まず何からどうはじめるかである。コレペティトア=指揮者であるので、はっきり言ってあらゆることがコレペティに必要な能力である。音楽的なこと以外にも、歌手を1名~数名をまとめて導く要領も必要になる。では音楽的な部分はどうはじめていくのか?


コレペティの勉強は、早い話がオペラのヴォーカルスコアの弾き語りである。自分もコレペティ科時代は専らこれだった。レッスンでは音楽的に大事なポイントを習いつつ、こういう時はこうすると歌手にいいとか、こういう風に弾くとどうなるとか、など実践的なアドヴァイスを受ける。その繰り返しでレパートリーを増やしつつ、コレペティトアとしての腕を磨いていくわけである。こうしてレパートリーとなったオペラは即実践で使える。後は練習のやり方等だが、これは経験あるのみではあるが、レッスン時にたまに歌手を連れて来て実践的指導を先生に求めたり、合間に歌手と個人的に練習したりして実践経験を積んで行くのもまた重要である。


というわけで、まずはやはり弾き語りから開始である。とりあえずは簡単でいいのでアリアから手を付けるのがいいであろう。慣れて来るとデュエット~といった感じで、そのうちオペラ全幕対応可能になる。弾き語りは歌詞を全部覚える必要があり、同時にピアノをどう弾くか(どの音が大事か、どの音を省くか、など)を考えるため、最初ある程度慣れるまでそれなりの期間はかなり地道な面倒臭い作業になる。しかしこれが最重要基礎であり最も大事と言える。最初は決して無理する必要はない。簡単な短いアリアからで充分である。むしろいきなり有名だからと言って難しいもにに手を出すと、確実に自己満足で終わってしまう。コレペティの目的はあくまで歌手に稽古をつけることである。その為に必要な準備のための訓練を怠ってならない。


次回から、その実践的練習(弾き語り)について、いくつかの具体例を上げながら説明していく。



ルサルカアリア

このオペラ自体が日本ではまだほとんど知られていなくて、そもそもチェコオペラというジャンルがまだゼロに等しい。当然チェコ語も音楽的にはほぼゼロである。そしてこれを実践できる指揮者がいないことが一番広がらない要因であろう。しかしルサルカが歌うアリア”月に寄せる歌”だけは有名で、日本でも多くの演奏会で多くのソプラノに歌われている。ところが、それゆえに正確に伝わっていない。まず歌う方も何をどうしていいのか分からず、指導できるものもいない、現状仕方ないわけである。


そんな中、今ルサルカアリアを課題にした特別セミナーをやっている。2日間で行い、受講生にルサルカのオペラやチェコオペラについての基礎知識と共にこのアリアの分析、ディクション、歌唱を指導すると言うものである。まだ3分の1しか終わっていないのだが、すでに色々なことを考えさせられた。


まずこのアリアは、情報がないにも関わらずすでに大きな勘違いが起こっている。日本ではこのアリア(役)は太い(あるいは重い)声の人がたっぷり揺らせてドラマティックに歌うと言う風に思い込前ているところがある。声楽指導者はそのように指導し、習う方もそういう古典観念を持ってしまう。この理由としてあげられるのは、まずは正確な情報がない(本物を指導できる者がいなかった)ゆえに、日本人の感覚と好みで解釈されているということ。さらに日本ではこのアリアのみ知られていてアリア以外の部分は知られていない、要するにオペラとしては全然知られていない。確かにこのアリアだけを見れば太い声でも歌えてしまうが、しかし他の部分を見ると太い声の人では歌えないか歌唱困難なことが間もなく分かる。このように、本場からの本物が伝わっていないというわけである。


自分は去年日本人指揮者として初めて本場チェコにてチェコ人とこのオペラを演奏することを幸運にも許されたわけである。当然準備から演奏に至るまで本場のオリジナルを学び実践した。そして今こうして日本のソプラノ何人かにその経験をお伝えしているわけであるが、作曲家への敬意のみならずチェコでやらせてもらったがためのチェコ人への敬意、そして最初に本物を日本へ伝えると言う意味での責任を重く感じる。立場上嘘は伝えられない、チェコ人へも、学びたい日本人へも誠意持ってお伝えすべきである。


とは言え、初夏の受講生の方らは純粋に感じ学んで下さった。例えば、コロラトゥーラソプラノの方がいた。前記の日本の古典観念ではコロラトゥーラがルサルカを歌うとはあり得ない話であるが、しかし充分演奏可能である。確かにコロラトゥーラの役ではないが、充分このアリアに必要な要素は持ち合わせているし、その前に太い重い声よりかははるかに合っている。そのことを説明しつつご一緒に実践した結果、短時間にも関わらず即代わり始めた。まだ完ぺきではないものの、すでに輪郭がはっきり見えて来た、間もなく本場でも違和感のない純粋なルサルカの演奏になるであろう。


ルサルカは、基本的には中くらいの声とされている。リリコのちょうど中ほどとでも言おうか。それ以上重い声になるとどんどん難しくなり、歌い方での対応が必要となっていく。逆にそれより軽く細くなっていくと、そちらは全く無理がない。よほど軽く細すぎる声ではない限り充分歌唱可能である。実際チェコではリリコ~レッジェーロが多い。


このように、ルサルカアリア、さらにはルサルカという役、まだまだ勘違いがある、というより知られていない。その受講生の方も当初は自分には関係ない役と思われていたが、この機会にそんなことはなく充分レパートリーになると分かり新たな可能性が生まれた。声楽家としては嬉しいことであろう。一までは関係ない、もしくは違うと思っていた方でも、このように可能性が開ける可能性は極めて高いわけである。是非このアリア(オペラ)を改めて純粋に学んでみたいと思われた方は、是非いつでもいらして下さい!