Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

コレペティトアとピアニストの違い

コレペティトアはどの街にもオペラ劇場があるヨーロッパでは必要不可欠、というよりむしろごくごく普通に当たり前に存在して来た職種である。しかしオペラ劇場が文化ではない日本では存在しなかった職種である。当然音楽業界においても仕事としては需要も供給もなかったと言える。もちろん今その職種の存在を知ってしまうと当然いた方がいい、いて欲しいとなるわけではあるが、しばらく前までは職業的には残念ながら必要なかったと言えよう。


その為、ヨーロッパ、とくにドイツ語圏の音楽大学の多くにはコレペティトアを養成する科がある。これは正確には指揮科である。さらに言うならば、指揮科の中にコレペティ科が存在しているところもある。元々ヨーロッパでは、指揮者はまずオペラ劇場でコレペティトアとして長年修行し、後に指揮者に成長or昇格して行く、というのが伝統である。近年は日本同様ヨーロッパも指揮者コンクールが増えて来て、コンクール上位入賞したシンフォニー指揮者がいきなり劇場デビュー&契約ということも残念ながら増えて来た。この辺に関しては色々あるのでまた機会を改めて書くとして、元来指揮者とはオペラ劇場での長い下積みを経て正指揮者になるのが伝統であった。言いかえるならば、オペラを振れる者こそが指揮者である。コレペティトアとはそこへ到達するための最重要ポストであり修行である。


ここまで書くとコレペティトア=指揮者というこがよくお分かりいただけると思う。が、しかしおもしろいのがWikipediaの表現である。ドイツ語で"Korrepetitor"と検索して出て来るドイツ語のページには"wie ein Dirigent"という説明ある。指揮者のごとく、指揮者と同様に、という風に理解して頂ければいいと思う。しかし日本語で”コレペティートル”と検索して出て来る日本語のページには”オペラ歌手やバレエダンサーに音楽稽古をつけるピアニスト”とある。これは、単にピアノを弾く人、という意味で書いたのならば普通かもしれないが、演奏者もしくはピアノ科出身者のピアニストのジャンルとして書いたのであれば真逆である。前述の通りコレペティというジャンルが存在しなくてかなり後になって認知されて来た歴史ゆえに、ピアノを弾くのだからピアニストと思われても仕方ないだろうし、伴奏者とコレペティトアの区別が不明確なままであった。日本ではまずオペラの現場におけるコレペティトアと練習ピアニストの違いも認識が明確ではない。この辺は今後のオペラ界の為にもそろそろ是非正確な知識で持って理解されるべきだと思う。


これまでに何度かコレペティに関するワークショップやマスタークラス等を国内外にてやらせて頂き、何人かのピアニスト(ピアノ科出身者、および伴奏ピアニスト)がコレペティを学びに来られた。皆優秀な演奏者で積極的で自分としてもとても楽しい時間であったわけだが、しかし皆に共通していたことがあった。それは、自分のやりたいこととは違ったということである。どういうことかと言うと、来られた皆さんはピアニスト=ピアノの演奏者で、自分は指揮者である。違いはこれである!前述の通りコレペティトアと伴奏者の区別があいまいだったせいもあり、多くの方々がコレペティトアをピアニストのジャンルと考えられていた。が、実際は完全に指揮者だったということである。やはりピアニストの方々はピアノの演奏をされたいわけで、コレペティトアとはピアノを使って”歌手に稽古をつける”という作業がメインであり、大事なのはピアノを弾くという作業ではない。


もちろん、伴奏者として成長していく過程でコレペティの勉強をすることはすごくプラスであり、そういう意味で興味を持ってこられる方々へは是非力にならせて頂きたいと思う。しかし、純粋に正真正銘のコレペティトアの修行するということは、ピアニストの方々のされてきた勉強とは全く違っている。学科的に言うならば指揮科を出た者、またはそれと同等の訓練を受けて来た者が内容的には自然と言える。


とは言え、ピアニストの方でも決してコレペティトアになれないわけではない!意欲のある方がちゃんとその訓練を行えばもちろん可能である。その場合、ピアノを弾く(技術)ということに関してはコレペティトアとしてはかなり充分すぎるぐらいである!しかし、切り替えが必要である。これがピアニストの方がコレペティトアを志す上で一番むずかしいことである。その辺につてはまた次回にw