Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

コレペティトアの役割と修行

コレペティトア=指揮者、ピアニストではない。となると、具体的に何をどうするのか、さらにはどうやって訓練してコレペティトアになるのかということである。


まずコレペティトアのやることを書き上げてみる。ここではヨーロッパの劇場での業務内容という視点で書く。


― 歌手の稽古(ソロ、アンサンブル、合唱)
― 舞台稽古(立ち稽古)
― オーケストラ内の鍵盤楽器の演奏(チェンバロ、チェレスタ、ピアノ等)
― 試験やオーディションでの伴奏(歌手やオーケストラの採用試験)
― 専属歌手の演奏会での伴奏(劇場による)


大体こんな感じである。まず一つ目、これがいわゆるコレペティである。ドイツ語では"Korrepetition"と言う。歌手個人に稽古をつけたり、数人のアンサンブル(重唱)の稽古をつけたり。このようにして、舞台稽古前(または指揮者が登場するまで)に音楽を仕上げるわけである。舞台稽古は日本のオペラ現場でもおなじみの光景である。この場合指揮者や音楽スタッフチーフ(ドイツ語圏ではStudienleiter、その他ではAssistant Conductorなど)が指揮し、演出家が演技をつけていく中での伴奏となる。オーケストラ内での鍵盤楽器、日本ではオーケストラが抱えているピアニストを抜擢する傾向が強いかもしれないが、ヨーロッパの場合は専属契約のあるコレペティトアが担当することが普通。試験やオーディションでの伴奏、日本では伴奏者同伴なども多いが、ヨーロッパの劇場では専らコレペティトアが担当する。専属歌手の演奏会、いわゆるドイツ語でいうLiederabendなどのことだが、これは劇場による。大劇場などプロジェクトの多いところになるとこういった業務が課せられる傾向にある。その場合はコレペティトアにもそれなりのピアニスティックが求められることになる。


これらの業務を劇場によって採用試験時や契約時に提示され、どういう業務内容のコレペティトアなのかが確認できる。というのも、大劇場になればなるほと指揮者もコレペティトアも人数が多いため、コレペティトアの中でも業務が分かれる。例えば、ひたすら歌手の稽古と舞台稽古ばかりの者、オーケストラ内での鍵盤楽器を担当するかしないか、専属歌手の演奏会で伴奏するかしないかなど。それにより採用試験時の課題から契約後の給料までにいくらか違いが出る。名前としては、Korrepetitorの他に、Repetitor、Solorepetitorなどもある。またそれら音楽スタッフチームのチーフ(まとめ役)としてSudienleiterという役職があり、コレペティ以外に練習のスケジューリングやコレペティトアの配置などを行う。さらに、劇場によってはコレペティトアと指揮者を兼任することもよくある。どの程度の指揮(公演、舞台裏の合唱、練習など)をするのかはその時々の契約次第。名前としては、Korrepetitor mit Dirigierverpflichtung、Solorrepetitor mit Dirigierverpflichtungなどがあり、あるいは逆に専属指揮者でありながらコレペティも担当するという、Kapellmeister mit Korrepetitionsverpflichtungなどもある。この"mit Dirigierverpflichtung"というのは、指揮することも課せられるという意味、Kapellmeisterは劇場専属指揮者のこと。


さて、これで大体コレペティトアの業務内容がお分かり頂けたかと思うが、この役職に就くのに必要な訓練を書いて行きたい。早い話が指揮科の訓練に同じなのだが、より具体的に説明したい。


メインになるのは、やはり歌手に稽古をつけること。これは歌手との伴奏合わせとは違う。日本でコレペティトアと伴奏者をごっちゃにしてしまわれてる方は、恐らくこの区別がついていないのだと思う。伴奏合わせは、予めそれぞれ準備してきた歌手と伴奏者がその演奏(公演)の為に音楽についての打ち合わせをする作業であるが、コレペティトアのやることは、歌手にそのオペラ(その役)をやる為の音楽の準備段階から完成に至るまで付き合うトレーナーやコーチである。したがって、歌手との練習では専ら指揮者同様楽譜、曲の解釈、言葉などあらゆる方面から指示を送りサポートしていく。ゆえに、まずコレペティトアの訓練として必須なのは、指揮者同様の曲の理解、オペラに必要な言葉(ドイツ語、イタリア語、フランス語など)のディクションである。そこにもちろん指揮者並みの練習のテクニックが必要となる。そして経験のある方ならご存知かと思うが、オーケストラスコアを無理やりピアノの楽譜に書き換えた、時には極めて弾きにくいオペラのヴォーカルスコアを弾くことである。はっきり言ってこれは優秀な演奏者としてのピアニストでも弾きにくい、あるいは演奏不可能なレベルのことが多い。それをどう弾くかが大事であり難しいのである。ピアニストの方は当たり前な話だが、通常楽譜にある音を全て弾き、それが困難な難所は技術的工夫などにより取り組んでいくわけであるが、コレペティトアはそこで大事な音(和音構成、テンポ&リズムなど)を拾い複雑な音などを削り効率よく弾いていく必要がある。なぜなら、コレペティトアの目的はピアノを弾くことではなく歌手に稽古をつけることである。ゆえに、全てにおいて歌手をサポートするために対応せねばならない。しかしピアニスト的発想では、恐らくこの説明でこの意味を理解はされると思うが、何だかんだ言いながらやはり全部の音を弾ければそれに越したことはないし、ピアノはうまい方がいいに決まってると心のどこかで思ってしまうものである。しかし、この切り替えこそがある一番大事である。そのピアニストの本能的な部分がコレペティをする時に一番問題になるのである。


というわけで、次回からその”切り替え”も踏まえてさらにコレペティの勉強の仕方をできるだけ具体的に説明していきたいと思う。