Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

ルサルカに寄せて

前回の投稿でルサルカのオーディションについて案内させて頂きましたが、補足と言っては何ですが、自分とルサルカについて書かせて頂きます。というのも、この作品は自分の人生に恐らく一番大きく関わっており、今回もただ好きでやりたいだけでなく、需要な意味を持って行う公演だと言う少しでも多くの方々に伝わればと思ったからです。


まずルサルカはチェコオペラ最高傑作とされております!チェコオペラと言うとピンとこない方がほとんどかと思いますが、しかしこのルサルカだけは多くの方々に知られています。特にルサルカが歌うアリア”月に寄せる歌”は超有名、プロの演奏会から音大生の門下発表会まで幅広く歌われています。ちなみにチェコオペラとは、ドヴォジャーク、スメタナ、ヤナーチェク、フィビッヒなど多くの作曲家が多くの作品を残しております。スメタナ”売られた花嫁”も名前は有名、マジェンカのアリアは日本でもよく歌われております。ただ、多くはドイツ語で歌われていますが…。その他、ヤナーチェク”イェヌーファ”、”利口な女狐の物語”なども有名です。これらはチェコでも当然代表作ですが、数的にはごく一部、まだまだ素晴らしいオペラは沢山あります。ただチェコ語による歌唱が世界的にまだまだ浸透していないので、チェコ国外での演奏はなかなか難しい。ルサルカや売られた花嫁はドイツ語訳がありドイツ語上演が多いですが、それすらもない作品がほとんど。というわけで、日本でも全然と言っていいぐらい知られていないジャンルであります。


話をルサルカに戻します。自分がこの作品に出会ったのはかなり前です。最初は多くの日本の声楽家がそうであるように、アリアだけは聞き覚えでしたが知っていました。最初にオペラそのものをちゃんと聞いたのは学生時代でした。実は自分が初渡欧をしたのがその時で、たまたまチェコの田舎に指揮マスタークラスを受けに行きました。なぜチェコだったかと言うと、本当にたまたまです。しかしチェコ音楽は何となく興味があったのも事実でした。で、その指揮マスタークラスで初めてヨーロッパのプロオケを指揮したわけですが、その時のチェコ人のオケが弾くチェコ音楽の音と響きに強烈な衝撃を受け、以来チェコにはまりました。帰国後、あまりにチェコ独特の響きに魅せられていた自分は、すでにオペラ指揮者を目指していたため「チェコの響きをチェコオペラで」と迷わず思い込み大学の視聴覚室へ。そこで初めて全幕ルサルカを聴いて強烈に感動したことを今でも覚えております。実際にチェコで聴いた響きそのものがその音楽と演奏にあり、漠然と「将来はこんな世界へ…」と思っていました。


その後自分はドイツ語圏の指揮科受験を目指し、大学創業後語学留学を経てオスとリアのグラーツ芸大指揮科&コレペティ科へ進学しました。その間、しばらくはそれに集中していたせいもあり、そのチェコ熱は忘れていたわけではないですが、しばらくおとなしくなっておりました。留学して1年が過ぎようとした頃、2年目に入ろうとする頃、たまたまチェコに旅行へ行きました。まずは当時指揮マスタークラスを受けた思い出の街。変わらぬその風景が懐かしかった。そして前々から興味があったプラハへ。これは圧巻でした!それまでいくつものヨーロッパの都市へ行き感動した経験がありましたが、プラハは特別強烈でした!はっきり言って一目惚れでした。そこで自分のチェコ熱が再加熱、というより、本気でチェコに進出したいと思い始めた瞬間でした。


というわけで、指揮者になるためというよりオペラ指揮者になるためにヨーロッパに来た自分は、もちろんチェコオペラに即目が向きました。当然ルサルカを改めて研究します。というわけで、そこからチェコ行き模索&ルサルカ研究が本格的に始まりました!とは言え、近年日本人留学生は増えて来たとは言え、チェコはまだまだ日本人の進出が少ない。特に指揮者はほぼいない状態。自分が知る限り、純粋に進出した日本人指揮者は1人、そしてチェコのオケのシェフになった日本人指揮者1人、その他若干名の日本人指揮者が客演指揮者として活動したぐらいでした。そしてチェコオペラ界へ進出した日本人指揮者はゼロ、完全に閉ざされた未開の地。自分の目指すところはチェコでも特に得体の知れない世界と言うわけです。


そんなわけで、まずは全くツテも何もない状態。色々模索しましたが、何年もかかりまして…。結果的にようやくチェコにたどり着けたのは2014年秋のこと。それまでに自分はグラーツからベルリンに移り数年、東京での一時待機を経てやっとプラハにたどり着きました。プラハへたどり着くまでも、たどり着いてからも、本当に色々ありましたが、ここでは省略。ただその間、いつ振れるかも分からないルサルカを地味に研究し続けていました。


プラハに移り、最初はなかなか思うようなルートが見つからず悪戦苦闘しましたが、しばらくしてチャンスが訪れました。チェコ最大級の音楽祭への紹介があり、そこで何かコラボできるという話です。紹介者は自分がチェコで一番お世話になっている方、今度東京でのルサルカに客演するゲストの元チェコフィルコントラバス奏者の方ですが、実は彼の紹介でこの音楽祭へ行けることになりました。そして何ができるかという話になった時、自分からルサルカの提案をしていました。正直これは個人的希望であり、そんな簡単にやらせてもらえるとは当然思っていません。チェコ人の愛国心、音楽文化の歴史、それらは自分がよく知っており、どう考えてもチェコオペラ史上最高傑作を、いくら信頼ある仲間の紹介とは言え謎の日本人指揮者に振らせるわけがないと思っておりました。しかし、そのコントラバスの彼は自分の提案を聞くと即「それはかなりおもしろい!」とその気になった模様。その後しばらくしてプラハで数ヶ月ぶりに音楽祭ディレクターに再会すると、なぜかすでにルサルカをやるという話になってしまってました!要するに、コントラバス奏者はその場で完全にその気になって、そのままそういう話になっていたというわけでした。事の重大さが重大さなだけに、びっくりはしたものの、あっけにとられた、という感じもありました。今でもよくこんな提案がそんな簡単に通ったなあと思います。


とは言え、当時の自分はオペラ指揮者としてなかなか苦しい時期で、なかなか活路が見いだせずにいました。そんな中突然巡って来た大チャンスでしたが、かなり長期間動けなかったりしたため、チェコでルサルカということはかなり一大事でも、単にヨーロッパでオペラ1本振るということはすでに全く難しくなく、むしろ何でここまで待たせられたのかというレベルだった。逆に言えば念には念をではないが、絶対安全圏的状況でのチャンスとも言えたかもしれません。それに前述の通りルサルカは個人的に地味に研究いていたこともあり、ようやく長い間の苦労が一つ報われるかもといった心境でした。


それで、2016年夏、その音楽祭にてルサルカを指揮、無事大成功を収めることが出来ました。現地では盛大なスタンディングオーベイション、光栄です!また関係者からは多くの賛辞を頂きました。オケは音楽祭ということで、実はプラハのオールスターオケでした。チェコフィル、プラハ国立歌劇場、プラハ国民劇場、プラハ響の主要メンバー数人と音楽祭のオーケストラアカデミー生、本当に楽しいメンバでした。個人的に一番嬉しかったのは、公演後オケに乗っていたプラハ国立歌劇場フルート奏者から「私はドヴォジャークの音楽が一番好きだ!そして貴方の指揮したルサルカはドヴォジャークの音楽そのものだった」と。この言葉で、指揮者としても人としても、今までの全てが救われたような気がした。まだたかが音楽祭の一公演の成功に過ぎないが、しかし現地の一流奏者からルサルカでこの評を頂いたということ、これはそのまま先につながる。チェコでオペラ指揮者としてやっていける確信を得ることができた!


そんなこんなで、ルサルカは自分の人生において最も重要な作品であり、自分を救ってくれた作品でもある。前述の通りチェコオペラ界は未だ閉ざされた世界でなかなかうまく入り込めない状態が未だに続いて入るが、しかしほんの少しずつではあるが、今動き出していると言うことも事実。そんなタイミングで会えて今東京でのルサルカ公演に挑むわけである。個人的なことを言わせてもらうと、今の自分の末b手を一番いい状態で見せられるということ。同時に一番高いレベルで勝負できる作品であるということ。


ルサルカは日本ではまだそこまで上演回数がない。最近少し増えて来たが、しかしまだまだ知られているレベルにはなく、むしろ間違った理解や解釈がされている。本場チェコで初めてルサルカを振らせてもらった日本人指揮者として、チェコへの感謝と経緯を込めて、今回ご一緒できる皆様と来て下さる聴衆の皆様へ、是非本物のルサルカ=チェコオペラをお届けしたいと思う。こんな自分と一緒にルサルカの音楽を追求したいと思って下さった方、是非お気軽にオーディションへお越し下さい!