Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

伴奏者とコレペティトアの違い

何だかんだと区別が曖昧な二つである。近頃は確かに両方の要素を持った者も増えては来ているが、基本的には全く別である。例えば、日本のオペラ公演のプログラム等の記述で、”練習ピアニスト”や”コレペティトア”などいくつかの書かれ方があるが、実際のところこれはそういった区別がはっきりなされずに書かれていることが未だに多い。また伴奏者が”自称コレペティトア”の場合があり、その中には区別がなされてないままの方も残念ながら多くいらっしゃる。さらには、本人は”コレペティトア”のつもりでやっていても、その認識に誤りがある場合も多い。いずれにせよ、そういった循環の結果、未だ間違った認識が多く続いているのは事実である。というわけで、”伴奏者”と”コレペティトア”について、違いを書く。


伴奏者とは、こちらの方が日本では認識がはっきりしていると思われる。本当の職人的伴奏者こそ日本にはごくわずかだが、ジャンルとしてはしっかり存在している。伴奏ピアニストとも言われたりもするが、ソロやアンサンブル等でピアニストを伴う場合のパートナー的ピアニストである。特にリートの分野では、歌手と伴奏者の関係がものすごく深く濃いものである。楽器の伴奏でも癖こそそれぞれの楽器に特徴こそあるものの、やはりソリストのパートナーとしての要素がある。そしてリートも楽器も、デュオという言い方も存在している。これは要するに、片方がメインで片方が脇役ではなく、二人の演奏家で一つのものをやるといったパートナー的表現であろう。日本ではほとんどの演奏会でこの”伴奏者”が存在する。ピアノソロや無伴奏でない限り必ず伴奏をするピアニストが存在する。またオーケストラを伴う公演においても、協奏曲からオペラに至るまでオーケストラが伴奏の役割を担う。その場合は指揮者が伴奏者的立場になるであろう。


コレペティトア、劇場で歌手に稽古をつけるトレーナーである。通常は指揮者が担当するが、専任コレペティトアもいる。ヴォーカルスコアを弾きながら歌手に稽古をつけ、発音、解釈、音楽作り等多くの準備を行う。ヨーロッパのオペラ劇場には必ず何人か存在し、裏方ではあるものの非常に重要なスタッフである。


ざっと説明するとこんなことろである。早い話が、伴奏者=ピアニスト、コレペティトア=トレーナー&指揮者、である。この時点で伴奏者=演奏家、コレペティトア=音楽スタッフ、ということがお分かり頂けるであろう。明らかに違う人種である。業務内容からしても、基本的には全く違う訓練をしてなるものである。


以上のことから、これらの違いは明確になったであろう。しかし、前述の通りこれらを兼任する者も最近は少なくない。ちゃんと訓練さえした者であれば、ピアニストでもコレペティトアとして仕事している者もいるし、あるいは指揮者出身のコレペティトアでもピアノがそれなりに弾ける者であれば、コレペティだけでなく演奏家会で伴奏する者もいる。それゆえに、両者の存在や役割がごっちゃになることもあるかもしれない。それこそ、日本のオペラ公演プログラムである。練習ピアニストは練習で伴奏するピアニスト、コレペティトアは音楽稽古から歌手に付き合うトレーナー、本来これだけの違いがある。が、単にオペラの現場でピアノを弾くから全員コレペティトア、とされていることが非常に多い。これは明らかな間違えである。厳密に言えば、日本のオペラの現場にいらっしゃるピアニストはほぼ全員練習ピアニストである。もし本当に両方が存在する現場があれば、プログラムへの表記は分けるべきである。それだけそこに到達するまでの経緯も業務内容も異なるわけである。


とは言うものの、コレペティトア=指揮者はオペラを指揮する=伴奏するわけである。ゆえに、いいコレペティトアであればピアノの能力がそれなりにあればいい伴奏者になれる可能性は充分ある。同じように、いい伴奏ピアニストがもし必要な訓練をして行けば、いいコレペティトアになれる可能性だって充分ある。伴奏、コレペティ、この二つは確かに違うジャンルではあるが、いずれも同じ音楽家であり、ソリスト等らとアンサンブルをするということでは共通する。本当に大事なもの、土台になるもの、それらには違いはない。


年末

12月、日本は第九シーズンですね!第九と言えば合唱、当然コレペティトアも合唱には必要になります。というわけで、合唱のコレペティについて。


日本では合唱でもオペラでも何でもそうだが、指揮者と伴奏者は別設定が基本。しかしヨーロッパへ行くと、確かにその設定もあるが、それは後々ある程度の段階へ行ってからの話。最初ある程度音楽が仕上がるまでは、合唱指揮者が自分でピアノを弾きながら練習するのが普通。あるいは、大劇場ともなると合唱指揮者(Chordirektor)のアシスタント(Chorassistent)がいて、そのアシスタントがパート練習から受け持つこともよくある。いわゆる、合唱のコレペティというジャンルが存在する。


スタイル的には普通のコレペティと何ら変わりない。指揮者がピアノを弾きながら稽古つけるわけである。違うのは具体的なやり方である。早い話がソリスト陣のソロ&アンサンブル稽古と合唱の稽古の違いである。共通点はあるが、ちょっと対応の仕方が違うのである。オペラのソリストの場合は各声部を軸に伴奏部分を弾きながら、時にはアンサンブル部分を、となる。合唱の場合は最初から4声のアンサンブルである。複雑になれば声部が当然増える。その時点でまずピアノの弾き方は和声的である。もちろん各声部別に弾いて音取りもあるが、基本和音で弾いていく要素が強い。ソリストの場合は伴奏部分(主に左手等)でテンポやリズムを与えつつ弾いていくが、合唱の場合はもちろんそれもあるが、合唱が歌う部分が数声部となると弾き方が変わって来る。文章で伝えるのはやや難しいが、とにかくソロコレペティに比べると和音な感じが強い。合唱経験のある方なら何となくピンと来るであろう。いずれにせよ、日本の現場のように普通に伴奏譜として書かれたピアノを単に弾くだけではなく、やはり歌手らの稽古の為の弾き方になる。


合唱指揮者を目指すものは当然この作業は当たり前に出来ねばならず、合唱指揮者を勉強中の者も当然この訓練を行う。さらには普通に指揮者を目指すコレペティでもこの要素を取り入れて対応する者も多い。合唱好きな方、指揮者、ピアニストの皆さん、ご興味おありでしたら是非実践してみて下さい!



不思議な一言

日本の音大時代の話である。当時声楽科の学生だったのだが、声楽科の友達の伴奏をよく引き受けてやっていた。最初にやり始めたきっかけは、伴奏者の見つからない友達に相談されて、それなら自分が弾こうか?というのが始まり。門下発表会の伴奏だった。実は小学校の頃から合唱コンクールや卒業式等の伴奏は何度もやったことがあり、伴奏することは好きだった。ゆえにそれなりにできる自信もあった。しかしこれがきっかけとなり、その後永遠続くとは当時は考えもせず…。


結局伴奏者としての活動は卒業するまで続いた。多い時は1つの演奏会で数人伴奏を掛け持つこともあった。そしてその流れで学外の演奏会でも弾くようになった。声楽家の学生でありながら、歌う回数よりも伴奏の回数の方がはるかに多かった。学生時代の演奏回数のほとんどが伴奏だったわけである。声楽科の学生は伴奏者探しに苦労することが多い。簡単に見つかる場合もあるが、見つからない人はなかなか見つけられなかったり、または相性が合わず伴奏者を変える場合もある。ピアノ科の学生も、積極的に伴奏をやる人から、伴奏が嫌い&興味ないなどで一切やらない人までさまざま。伴奏者との出会いも縁の話である。それゆえに、声楽科の学生でも自分のように伴奏ができる&やっていると知られると引っ張りだこになってしまうこともあるわけである。多くの声楽科の仲間に言われたのが、声楽家の方が歌のことをよく分かっているから歌いやすいと。それが理由で結構使ってもらえた。日本の音大在学中、声楽に始まり、気が付いたら金管楽器の伴奏まで何人かやっていた。最終的に卒業試験でも何人も伴奏していた。


大学に入る直前から声楽に並行して指揮の勉強も始めていたのだが、今思えばこの伴奏者としての活動が自分の基礎になった。声楽科の学生だったということもあり、先輩から学生オペラの副指揮などの機会を何度か頂いたが、当初は全然歌に合わせて振れず色々大変だった。が、伴奏を永遠やっていたお陰で、徐々に合わせると言うアンサンブル感覚が培われた。伴奏こそが自分の原点である。しかしながら、当時は自分が将来コレペティトアになるなんて考えもしなかった。というのも、伴奏はそれなりの数やってはいたが、ピアノ科じゃなかった自分はピアノの技術には大して自身を持っていなかった。後に留学して指揮科&コレペティ科に入ってピアノの技術がコレペティには大事ではないと知るわけだが、当時はそんな知識はなかったし、それより何よりある程度以上の難易度の曲を弾く、すなわち難しいヴォーカルスコアを弾くということが自分自身にイメージできなかった。と、そんなある日不思議なことが起こった。


当時専属で伴奏していた同期の声楽科の友達(ソプラノ)がいた。彼女の伴奏は門下発表会、学外の各種演奏会、個人レッスン、オーディションなど多岐にわたっていた。ある日彼女の個人レッスンの伴奏に行った時である。その先生はベテランで、確かすでに退官されて名誉教授になられていたような頃だったと思う。その先生のレッスンは何度か行き、自分の伴奏を気に入って下さってとても大事にして下さっていた。で、ある時先生は自分にこうおっしゃった。「君は歌のことを分かって弾いてるから、コレペティトアになったらいいんじゃないか?」と。前述の通り、当時の自分は指揮者は目指していたもののピアノにそこまで自信がなくコレペティトアに何てなれるわけがないと思っていた。ゆえに先生のその発言にはびっくりと言うか、むしろ言葉は悪いが真に受けなかった&相手にしなかったような感じだったことをよく覚えている。もちろんベテランの先生のお言葉はありがたいのだが、しかし当時はさすがに受け入れきれないものだったわけである。何より意外過ぎて不思議だった。


それから数年後、留学して指揮科へ入学。その1年後、再度入試を受けコレペティ科にも在籍した。そして今、オペラ指揮者&コレペティトアとして活動している。どういうわけか、その先生が言われた通り、望まれた通りになったわけである。コレペティトアを本格的に志した理由は色々あったが、しかし最初は全く考えもできなかったその道になぜか行ってしまった。さらに言うならば、その先生は本当に自分をよく見て下さっていた、いや、何かが見えていたのか感じられていたのかもしれない。


その友達の伴奏はその後しばらくして辞めたのだが、それ以来その先生にはお会いできていない。またお会いできることがあれば是非当時のことを聞いてみたい。そして何より、自分の今を報告したい。きっと心から喜んで下さるに違いない。うまく言えないが、その先生には今色々な意味で心から感謝している。