Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

コレペティトアの種類

基本はオペラにおけるコーチ、世界中同じ認識である。しかし、今日コレペティトアとはいくつかの種類が存在する。以下の通りである。


― オペラコレペティトア
― 器楽コレペティトア
― バレエコレペティトア


基本この3種類であろう。ドイツ語圏の音大の場合、規模の大きいところはこれら3つに科が分けられていることがある。基本コレペティ科とは指揮科に属するのだが、その中でこれらに分類されているところがある。ちなみに、我が母校のグラーツ芸大は指揮科の中にあり、オペラコレペティ科しかなかった。しかしながら、ここは無理やり言うと”指揮コレペティ科”みたいな感じである。伝統的言い方で、指揮科へ行き指揮とオペラコレペティを学び劇場指揮者に必要なことを主に学んだ場合を”Kapellmeister Studium”と言う。Kapellmeisterとは、ドイツ語圏の劇場専属指揮者のことを指す。それの為の訓練ということで”劇場指揮者の為の訓練”みたいな感じであろう。


話を戻して、前述の3つのの違いである。オペラコレペティは言うまでもなく劇場コレペティトアになるべく訓練を受け劇場へ入ったコレペティトア、あるいは指揮者である。器楽コレペティとは、器楽奏者の為のコレペティトアである。ヨーロッパの音大には、声楽科はもちろん、器楽の科にもコレペティトアが存在する。実技担当教授が専門の楽器を通じて音楽を教えるのと同時に、音楽的視点で指導するコーチがこのコレペティトアである。やり方はオペラの場合と基本同じで、ピアノを弾きながら音楽を指導するのだが、楽器の技術的なことが中心ではなく音楽や楽譜についてが中心となる。実践的訓練と言えよう。そしてこの場合、オペラに比べてピアニスティックな要素が多くなる。オペラの場合は指揮者が担当することが基本だが、器楽の場合はどちらかというと器楽を専門にした伴奏ピアニスト的な者が担当することが多い。日本にはオペラのそれより器楽のこれの方が多いのかもしれない。バレエコレペティトアは、オペラコレペティトアのバレエ版である。劇場やカンパニーにおいて、バレエの練習でピアノを弾く者である。これもオペラに比べるとピアニスト的かもしれない。というのも、オペラコレペティトアが歌手を指導するような感じにバレエコレペティトアがバレエダンサーを指導することがなく、練習に付き合うことになるからである。ゆえに、オペラとバレエでは求められる要素が違う。劇場によっては、これらを別々に募集し採用するところもあれば、両方兼任の場合もあるが、基本的には別物である。バレエコレペティトアはもちろん日本にも存在しているが、このヨーロッパ的認識であるかどうかは微妙である。これも単にバレエ好きのピアニストが来ているという程度かもしれない。しかしオペラコレペティトアよりも日本とヨーロッパにおける業務内容の違いはない。ほぼ同じと考えていいだろう。


このように、コレペティトアと言われる人種にもいくつかのジャンルが存在する。そして、その中でもまたいくらか分かれている。例えば、オペラコレペティトアで、指揮者でコレペティをする者、指揮者&コレペティトア兼任の者、コレペティ専任&専業の者、伴奏ピアニスト&コレペティトア兼任の者。器楽コレペティトアで指揮者上がりでコレペティ専任&専業の者、伴奏ピアニスト&コレペティトア兼任の者。バレエコレペティトアで、指揮者上がりでコレペティトアの者、専任&専業コレペティトアの者。このように細かく分けると色々いる。共通して言えることは、やはり土台が指揮者であるということであろう。もちろん伴奏ピアニスト出身的なタイプも多く存在しているので、それぞれがそれぞれの得意性を持ち機能している。コレペティトアを志す者は、このどのタイプが適正かを考え、それに合った訓練を経てなるべきである。またその正しい理解と訓練がいいコレペティトアを生み出すであろう。


コレペティトアと声楽家

劇場で歌手陣を支えるコーチ、コレペティトアの役割を簡単に一言で言うとこんな感じになると思う。では、厳密には歌手とはどういう関係なのか。どこからどこまでをコレペティトアがやって、何が声楽家個人のやることなのか。この辺、実はおもしろくも大切である。


残念ながら、声楽家は楽譜、譜読み、ソルフェージュ、ゆえに練習に弱いとされている。確かに傾向としてはそうだが、しかしなぜそうなのかは、実は自分にはいまいち分からない。というのも、自分は元々日本の音大で声楽科に在籍していて、それで指揮者&コレペティトアになったという極めて稀なタイプ。合唱指揮者なら普通かもしれないが、オペラやシンフォニーの指揮者ではほぼいない。それゆえに、なぜ声楽家がそれらに弱いのが分からない。練習したら済む話だろ、としか思えないからである。確かにそういった訓練をしてないか少ないから弱いと言えるかもしれない。一つ思いあたるのは、声楽家は順序的にまず発声から練習し始める。これは例えるなら楽器製作である。楽器の場合は職人がやるが、声楽の場合体と声が楽器になる為自分でせねばならず、まずはこの発声の訓練にものすごく時間がかかる。それゆえに、器楽奏者らが読譜やソルフェージュ的訓練を行う時間に対して声楽家のそれがものすごく短くなっている傾向は確かにある。後、声楽家は声を使うため練習時間が器楽奏者ほど持たない。ゆえにある程度の段階になった時、楽譜に向かっている時間、譜読みした数(経験)が声楽家の方が明らかに少なくなるというのもある。また日本の場合、オペラ歌手はオペラを芝居と思い込んでしまってるケースが極めて多いので、音楽的訓練を明らかに後回しにして演技の練習ばかりに時間も動力も費やしていることが多い。当然音楽的能力は上がらない。これは日本独特でヨーロッパでは音楽重視なのだが、ヨーロッパの歌手はまた別の問題があるのであろう。こうしてあげるといくつかは出て来る。しかしながら、声楽家にも数は少なくとも、そういった能力がよく備わっているものもいるにはいる。要するに、ちゃんと訓練さえすればできるのである。ゆえに、これらは仮に理由としたところで、所詮言い訳になってしまう。


コレペティトアは指揮者の音楽(解釈からテンポまで)を歌手に伝えつつ練習しながら、こういった読譜的なことまで歌手にサポートする。しかし冷静に考えると、指揮者との練習に入るまでの段階は本来演奏家の準備であり、個人責任である。しかし劇場歌手の場合、コレペティトアが存在する。確かに、指揮者の要求を踏まえて稽古をつけるという作業は効果的で限られた時間に効率よく練習ができる。劇場のような組織においては必要不可欠であろう。が、歌手の読譜的なことやソルフェージュ的なことも結局ある程度やらざるを得ないのもあた現実。ここまで来ると、客観的に見ると、対応できていない歌手が駄目に思われるであろう。確かにその辺は本来歌手(演奏家)個人責任である。コレペティトアは能力的にはその辺も対応できねばならないが、冷静に考えればコレペティトアがその辺まで手伝っている時点で歌手の能力的問題となっているのである。


よく声楽家は、それらゆえに、コレペティトアは歌手の練習をしてくれる人と思い込み、人任せになっている場合が非常に多い。しかしこれはとんでもない間違えである。自分である程度やった上でコレペティトアのところへ行くからいいのである。また公演がなくともオペラのレパートリー拡大や勉強の為にコレペティトアのところへ個人的に行く場合もあるが、これはオペラやその役についてを学びに行くわけで、あくまで譜読みのアドヴァイスである。楽譜を読みものにするのは最後は自分自身である。その辺をしっかり認識した上でコレペティトアのところへ行かないと、いつまでも人任せで一人の演奏家として成長できない。コレペティトア目線では、そういうドツボに陥った歌手を見るとかなり痛いわけである。仕事と割り切って対応してもらえる場合もあるかもしれないが、ある一線を越えてしまっては全く歌手の為にならない。前述の通り、自分は声楽を専門教育機関で専門的に勉強してきたコレペティトアであるため、こういった声楽家の甘い部分、間違っている部分は特に気になってしまう。声楽家の方もコレペティトアの方もその辺を分かった上で取り組んでいくと、少なからず上達やレベルアップにつながるであろう。



世界におけるコレペティ事情

日本ではまだまだ正確に認知されていないコレペティだが、世界ではどうなのか。言うまでもなくヨーロッパ、特にドイツ語圏は伝統的スタイルが根付いている。ドイツ語圏以外のヨーロッパ諸国でも、いくらか地域ごとのキャラクターによる違いはあるが、大体似たようなスタイルで存在している。


ヨーロッパから少し外れてみる。ロシアやウクライナあたりに来るとすでに全然スタイルが変わっている。この辺では、日本と極似で、コペレティトア(劇場での歌手のコーチ)はピアニスト(ピアノ科出身者)の仕事となる。ロシアで歌っていた友人に聞いてみたところ、コレペティはピアニストだと言う。日本がロシアのこれを真似たのか影響受けたのかは知らないが、極めて似ている。コレペティトアの役割や求められる能力は指揮者そのもの、これは業務内容から考えても根本的に同じはずだが、果たしてそれがピアニストに務まるのか、実際行って見てみたいものである。とりあえず言えるのは、劇場が歴史的文化的に長らく存在しているロシアでのこの役職、日本よりはるかに機能していることは確かである。それが実際どういうものなのか気になる。


アメリカではどうか。劇場やオペラカンパニーにおいて基本的にこの役職は音楽スタッフ(Music staff)として存在するので、基本的にはヨーロッパのそれと同じであろう。しかし劇場の募集要項等を見ると、ヨーロッパに比べるとややピアニスト的に表現されているような気がする。多少キャラクターが違うのかもしれない。実際にそこへ行って見たわけではないが、ヨーロッパのがんぞコレペティに比べるといくらかアメリカ独自のキャラクターが存在しているように思う。ともあれ、ロシアや日本のように諸ピアニスト(ピアノ科出身者)というまでではないようである。


今日色々なタイプのコレペティトアが存在する。元祖コレペティ(=指揮者)、伴奏ピアンスト兼任のコレペティトア、指揮をしない専任コレペティトア、極めてピアにスティックなコレペティトアなど。もちろんその場と状況に応じて色々なタイプがいていいと思う。しかし大事なのは、その元祖コレペティがどういうものか、この伝統的スタイルこそがオペラを作り支えるということ。これだけは基礎として是非押さえられたい。