Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

爆笑回?

コレペティ科時代、声楽家の友達に呼び出されコレペティや伴奏をすることがちょくちょくあった。それらはとても貴重な機会で、一緒に付き合ってくれた仲間にはすごく感謝している。が、ある時よく一緒にやっていて声楽科の某バリトンが、色々な意味でおもしろかった。


彼は残念ながらソルフェージュ力が乏しく、言ってもなかなか治らないタイプだった。しかし意欲的なので、こっちもできる限り付き合ってしまう。ここまでならまだ普通だ。しかしたまにそれ以上の飛んでもない領域まで行くことがある。最初は普通に練習しているのだが、ある時テンションが上がりどうしようもなくなり、近い友人を無理やり呼び出し気が付いたら演奏家もどきになっている。その頃にはさすがに付き合いきれなくなる。しかしそこに来てくれた友人達は本当にいいやつだったと思う。譜読みするままならない歌をまじめに聴かされて何かしら賛辞を無理矢理述べていくのだから。


もっと酷かったのは、自分が遠出してたまたまいなかった時に身代わりになった友人がいた。彼は現在同大学の声楽科でコレペティトアとして学生を指導しいるのだが、こともあろうに大晦日に呼び出され、客のいない(正確には前述の友人1~2名程度)なんちゃってジルヴェスターコンサートを強引に開催し伴奏させられたのだ!後で彼からその様子を聞いたらさすがにコメントに困ったが、しかし寒いヨーロッパの年末年始にそれではやりきれない。…。


といった具合に、コレペティの実践に機会も時には訳の分からない事態に陥ることもあるようで…。しかし、今となってはいい思い出である。今こうして回想して笑えることは何よりである。修業とはまじめにいいものばかりではなく、時には良くも悪くも変なことになるものである。それも踏まえて経験である。で、その某バリトン歌手、現在どこで何しているのか、消息不明である。一つ言えるのは、まあ大して変わってないであろうということ。とりあえず声楽は続けているようなので何よりである!


やや番外編

コレペティ科在学時、授業やカリキュラム以外でちょくちょく個人的にコレペティをする機会がありました。ある時、某マスタークラスのオーディションを受けたいからとのヴァイオリンの友達に頼まれて初見コレペティをやったことがありました。要するにその友達は、試験前に伴奏付で調整したかったというわけで、厳密にはコレペティと言うより伴奏で付き合った感じでした。曲はW.A.モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番。後に何度も振ってますが、当時は初めてで、楽譜もその当日持ってくるとのことで初見でした。


試験課題は1楽章と2楽章。これはオケの採用試験の定番でもあり、こういったオーディションでも必ず出て来る、言わば避けては通れない課題の一つです。当時の自分にもいい訓練でした。またその友達はすごく音楽的でいい演奏をしていたので、こっちも色々な刺激を受けました。そして初見でというのもかなりいい訓練になりました。結果的にこの練習は2日間行い、友達は準備段階としてとても満足してくれました。また自分も限られた時間ではありましたが、いい経験と勉強になり、友達にはすごく感謝しています。


このように、コレペティ科や指揮科にいるとこのような機会がちょくちょく訪れます。それを受けるか受けないかは本人次第ですが、これこそが生きた経験になる最高な勉強の一つです。日本ではピアノが伴うものは全てピアノ科出身者へと簡単に考えられますが、これは本来コレペティトアや指揮者の専門分野になります。指揮科も数少ない日本では確かになかなかないことかもしれませんが、コレペティトアや指揮者を志すのであれば、絶対やるべき訓練です。むしろ自分から求めて探していくべき実践の場です。


役の声

変な題名になってしまいましたが…。オペラの役には声の設定があります。どの役がどの声で歌われるのか、どの声が適任か、どの声なら可能か…。色々ありますが、どの役も他生の範囲はあるものもあれど、基本的には適した声が存在します。それらは、まずは声種、そして声の質です。質とは、重いか軽いか、太いか細いか、などなど。声楽家は皆自分の持ち声と照らし合わせて、演奏可能なものを探し練習しものにしていきます。


しかし、この声の設定というのは、国や地域によって違ってくるものもあります。世界中どこへ行ってもほぼ同じものから、あるところへ行くと結構違う設定になっていたり。実は探すと結構あります。自分の経験上、有名な役で明らかに違うのが、G.ビゼー”カルメン”のミカエラです。この役は世界的には比較的しっかしした声の人が歌うという認識がされているようですが、実は本場フランスでは違います。軽い細い人にが歌う役です。かつて自分がカルメンを指揮することになった際、コレペティの師匠に是非習いに行くといいと紹介されたのがパリ在住のフランスオペラの大家のマエストロJ.ペリゾン先生。2日間彼とマンツーマンでスコアリーディングをさせて頂きましたが、その時に先生がこう言われてました。「世界中でミカエラは重い声で歌われているが、それが間違えだ。フランスでは細い軽い人が歌う。なぜならミカエラは若い娘だから」と。本場の方がそうおっしゃるので間違えはないでしょうが、しかしフランス語圏を出ると前述のような設定なわけで、一つの役でここまで認識が違うといういい例でしょう。


その他、せっかくなのでもう一例。自分が得意とするオペラ、A.ドヴォジャーク”ルサルカ”、日本ではあまり上演されませんが、ルサルカのアリアが有名でこれだけはよく演奏会でも歌われています。が、このルサルカの声も本場チェコと日本では大きく異なります。日本では太くて重い声でたっぷり揺らせて歌うと思われていることが多いようですが、実は本場本物は真逆です。普通から軽めの声の人がシンプルにサラっと歌うのがチェコで一般的です。最近日本でもルサルカを指導することがありましたが、この違いはものすごくはっきりとしていました。確かに日本人が日本人の感覚でルサルカを感じるとそうなってしまうのかもしれませんが、しかしドヴォジャークは日本人ではなくまさにそのチェコの感覚で書かれたわけです。


この他にも上げていくとキリはないかもしれませんが、役の声がどういう設定になっているのか、調べていくと結構おもしろいような気もします。そして声が変われば歌い方も当然変わります。それはもろに音楽に影響するわけですが、議論が尽きないネタでしょうねえ。個人的に思うのが、確かに地域的な設定や傾向はあるかもしれませんが、あくまで大事なのはその作品そのものなわけで、ひたすら作品と対話すべく…ではないかと思います。生涯かかりますねえ。