Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

ルサルカアリア

このオペラ自体が日本ではまだほとんど知られていなくて、そもそもチェコオペラというジャンルがまだゼロに等しい。当然チェコ語も音楽的にはほぼゼロである。そしてこれを実践できる指揮者がいないことが一番広がらない要因であろう。しかしルサルカが歌うアリア”月に寄せる歌”だけは有名で、日本でも多くの演奏会で多くのソプラノに歌われている。ところが、それゆえに正確に伝わっていない。まず歌う方も何をどうしていいのか分からず、指導できるものもいない、現状仕方ないわけである。


そんな中、今ルサルカアリアを課題にした特別セミナーをやっている。2日間で行い、受講生にルサルカのオペラやチェコオペラについての基礎知識と共にこのアリアの分析、ディクション、歌唱を指導すると言うものである。まだ3分の1しか終わっていないのだが、すでに色々なことを考えさせられた。


まずこのアリアは、情報がないにも関わらずすでに大きな勘違いが起こっている。日本ではこのアリア(役)は太い(あるいは重い)声の人がたっぷり揺らせてドラマティックに歌うと言う風に思い込前ているところがある。声楽指導者はそのように指導し、習う方もそういう古典観念を持ってしまう。この理由としてあげられるのは、まずは正確な情報がない(本物を指導できる者がいなかった)ゆえに、日本人の感覚と好みで解釈されているということ。さらに日本ではこのアリアのみ知られていてアリア以外の部分は知られていない、要するにオペラとしては全然知られていない。確かにこのアリアだけを見れば太い声でも歌えてしまうが、しかし他の部分を見ると太い声の人では歌えないか歌唱困難なことが間もなく分かる。このように、本場からの本物が伝わっていないというわけである。


自分は去年日本人指揮者として初めて本場チェコにてチェコ人とこのオペラを演奏することを幸運にも許されたわけである。当然準備から演奏に至るまで本場のオリジナルを学び実践した。そして今こうして日本のソプラノ何人かにその経験をお伝えしているわけであるが、作曲家への敬意のみならずチェコでやらせてもらったがためのチェコ人への敬意、そして最初に本物を日本へ伝えると言う意味での責任を重く感じる。立場上嘘は伝えられない、チェコ人へも、学びたい日本人へも誠意持ってお伝えすべきである。


とは言え、初夏の受講生の方らは純粋に感じ学んで下さった。例えば、コロラトゥーラソプラノの方がいた。前記の日本の古典観念ではコロラトゥーラがルサルカを歌うとはあり得ない話であるが、しかし充分演奏可能である。確かにコロラトゥーラの役ではないが、充分このアリアに必要な要素は持ち合わせているし、その前に太い重い声よりかははるかに合っている。そのことを説明しつつご一緒に実践した結果、短時間にも関わらず即代わり始めた。まだ完ぺきではないものの、すでに輪郭がはっきり見えて来た、間もなく本場でも違和感のない純粋なルサルカの演奏になるであろう。


ルサルカは、基本的には中くらいの声とされている。リリコのちょうど中ほどとでも言おうか。それ以上重い声になるとどんどん難しくなり、歌い方での対応が必要となっていく。逆にそれより軽く細くなっていくと、そちらは全く無理がない。よほど軽く細すぎる声ではない限り充分歌唱可能である。実際チェコではリリコ~レッジェーロが多い。


このように、ルサルカアリア、さらにはルサルカという役、まだまだ勘違いがある、というより知られていない。その受講生の方も当初は自分には関係ない役と思われていたが、この機会にそんなことはなく充分レパートリーになると分かり新たな可能性が生まれた。声楽家としては嬉しいことであろう。一までは関係ない、もしくは違うと思っていた方でも、このように可能性が開ける可能性は極めて高いわけである。是非このアリア(オペラ)を改めて純粋に学んでみたいと思われた方は、是非いつでもいらして下さい!