Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

日本語上演について

かなり前は全てのオペラを日本語上演にしていた時代があった。新世紀に入りそれはどんどんなくなり、近頃ではかなり減った。それは演奏技術と外国語歌唱への慣れ、さらにはインターナショナルな視野が出て来たため世界基準に合わせて行ったというのもある。何よりオペラは外国語のもの、ようやくオリジナルに対応できるようになって来たとも言える。


日本語上演のメリットと考えられて来たのは、まず日本語だから分かりやすい、読む難しさがないなどがあったと考えられる。しかしこれはちょっと違うわけである。まず分かりやすいと言うのは、歌う方が確かに理解に困らないかもしれないが、声楽の発声で日本語で歌うのはかなり難しいもので、しかも日本語でその発声で歌われては極めて聞き取りにくく、聴衆的には分かりやすいと言うことはない。それならば、発声的に自然な言語で歌い演奏コンディションをよくした上で字幕上演にする方が、音楽的にも言語的にもはるかにいい結果になると言うわけである。またオペラの音楽はその言語につけられたものであり、日本語に無理やり置き換えると音と合わず極めて不自然なことになる。ゆえに、厳密に言えば日本語上演はデメリットしかないとも言える。オペラを無理矢理日本人に合わせただけで、強引な話自己満足になるし、まず演奏者としてその音楽に対応する気がないとなってしまう。


近年日本語上演は減って来たとは言え、まだ残ってはいる。しかしその残り方は極めておかしいものである。日本語上演されるものは、ほとんどの場合ドイツオペラである。ここから日本でのドイツオペラに対する偏見や毛嫌いなどが見て取れる。今日の日本の声楽教育ではイタリア物が主流で、それ以外は少しである。ドイツ歌曲をメインにする歌手もいるにはいるが、そういった人たちは残念ながら影の存在的にされている。王道はイタリアオペラ、それこそがオペラ、ドイツオペラはオペラではない、みたいな感じが確かに強い。それゆえにイタリア語には慣れてきたがドイツ語はちょっと…となり、ドイツオペラをやる際は未だに日本語上演が多いということになってしまっている。しかしこれは前述の通りで、やはり日本語上演には無理があるわけである。それでもなぜそれが続くのか…。


個人的経験であるが、結構最近あったことである。自分はオーストリアに学び、ドイツを経て現在チェコが拠点である。そのプロフィールから最近知り合った初対面の某日本人声楽家から「普段はドイツオペラばかりですか?」と言われたのである。この瞬間日本に根強く存在する偏見を感じた。まず冷静に考えてこれは極めておかしな発言である。最初に感じるのが、ドイツオペラをやるということに対する物珍しさ的感覚、そしてドイツ語圏ではドイツオペラしかやってないのではという感じの思い込みである。いずれも見事に外れである。確かにヨーロッパででは、やはり土地のものはその土地でという伝統的なおのがある。ゆえにドイツ語圏ではドイツ語圏のオペラがしっかりと守られている。しかしドイツでは同時にイタリアオペラもものすごい上演数がある。そもそもドイツはオペラ劇場の数が世界トップクラスに多い。全体的にイタリアオペラは主要レパートリーに当然入っている。それでいて伝統的なドイツオペラもやり、それ以外もやる。ドイツ語圏は結構満遍なくやっている。むしろイタリアの方が明らかに偏りがある。イタリアオペラ以外をやる比率はドイツや他の国より極めて低いわけである。


話を戻して。オペレッタの場合は確かに日本語上演というのは一理なくはない。というのは、オペレッタの場合音楽と同等かそれ以上にセリフが大事になって来る。確かにセリフを原語で行うのは難しいし字幕上演では聴衆の理解度も半減するかもしれない。近頃では歌を原語でセリフを母国語でというのも増えてきている。これはある意味効果的な方法かと思う。しかし普通のドイツ語のオペラを日本語でというのは、そろそろおかしいのでは。イタリアオペラは原語上演、ドイツオペラは日本語上演、これは完全に歌手陣らの都合である。興味があり慣れているのはイタリア語でドイツ語はそうでない、完全に自分たちの都合である。はっきり言って、聴衆からしたらイタリア語もドイツ語も同じ外国語であり、理解度は同じである。そんな今日に両者に差をつけて演奏活動することは極めて不自然であり、また演奏的上達はありえないわけである。ものすごく残念な現実である。


またドイツ語圏以外のオペラの場合、最初はある意味日本語上演にするのは仕方ないかもしれないが、それらは意外に早く原語上演へと移行する。例えば自分の主要レパートリーであるA.ドヴォジャーク”ルサルカ”がいい例である。チェコ語はまだ日本人に経験がなく難しい。最初は日本語上演であったが最近はチェコ語上演が増えつつある。ドイツオペラ=ドイツ語よりも遥に知識も経験も浅いのに。まずチェコぺらを知らなさすぎるからというのもあるのかもしれないが、それにしても結局ドイツ語が毛嫌いされているように思えて仕方がない。同時にドイツ語に対する間違った理解もあるからかもしれない。例えば、ドイツ語は固いと日本では思い込まれているが、これはとんでもない間違えである。実際はイタリア語などのラテン系よりも明らかに柔らかい言語である。美しい旋律やハーモニーの多いドイツリートを聞けばドイツ語独特の柔らかさは明らかである。


いつの日か、イタリアオペラもドイツオペラも、その他も、満遍なく日本で上演される日が来たらと個人的に思う。もちろん民族性的好み等あるのかもしれないが、やはりそれぞれの良さがある。まずはドイツオペラなどに素直に謙虚に目を向けてみることだと思う。最初イタリアオペアに対した時のように。