Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

コレペティトアに必要な訓練

ずばり書き上げると、コレペティトアになる為に必要な訓練は大体以下のようになる。


― 弾き語り
― 指揮
― 声楽
― スコアリーディング
― 楽曲分析
― オペラの知識と解釈
― 語学
― リハーサルテクニック


コレペティの訓練は基本的に弾き語りに始まり弾き語りに終わると言ってもいいだろう。ここには色々な要素が凝縮される。逆に言えば、オペラの弾き語りがしっかりできればすべてがより深くなり対応力もつくと言える。以下に上記を順番に説明する。


弾き語り
オペラのヴォーカルスコアを弾き語りしていくわけだが、大事なのはコレペティに必要な効果的なピアノの弾き方、そしてディクションである。さらに、形だけではなく歌手に指導するためにオペラをしっかり理解した上でのコレペティを目指すなら当然オペラの解釈から楽譜上のポイント(ブレス位置、音程の難しい部分等)もここで理解すべきである。ゆえに、弾き語りこそ最重要な訓練である。ピアノの弾き方は、全部の音を拾うピアニスト的弾き方ではなく、テンポ、リズム、音程を歌手により正確に伝える為に、どの音を弾くか、どの音を抜くかを考える必要がある。これらはコレペティの基本であり、ある意味最重要である。ピアニスト的には全ての音を拾う方がいいと考えられやすいが、ここでは残念ながらその考えは間違えである。なぜなら、これらの業務をこなす上でいわゆる”うまいピアノ”の必要性はなく、むしろ歌手を導くための弾き方であるべきだからである。ゆえに、指をどうしたら全部の音が拾えるか、などはここではやるべきではない。それよりなにより大事なことは他にいっぱいある。ピアノを弾くのではなく、ピアノを使って行うのである。ピアノはあくまで仮想オーケストラであり、また歌手に稽古をつけるための道具である。


指揮
基本的に指揮者がつとめる役職なため指揮のノウハウが必要なことは言うまでもない。棒を振るか、鍵盤を弾くかの違いだけで、やってることは全く同じである。ただ最近は指揮者ではない専業コレペティトアや、伴奏ピアニスト兼任的なタイプのコレペティトアも増えてきている。その場合必ずしも指揮ができるわけではない。そういった指揮者出身でない方々は、最低限度指揮の基礎知識、できれば基礎訓練&経験が必要である。指揮者と同じ目線や考え方、指揮者に対する理解、これらがないとさすがにこの役職では仕事不能となる。


声楽
言うまでもなく、コレペティとは歌手に対して行う行為であるから、声楽の基礎知識は必須である。とは言えコレペティトアは歌手ではないので、声楽家と同等に声楽の知識を得ることは困難である。少なくとも、歌手とはどういう人種か、どうやって準備して実践するのか、といったことを理解し声楽に対する知識理解を得ておかねばならない。指揮者&コレペティトアには残念ながら声楽出身の者が極めて少なく、本当に残念ではあるが声楽を声楽家を正しく理解していない者がほとんどである。それゆえに正しく理解できている者は歌手からの信頼は厚い。しかしながら声楽を理解できてない指揮者やコレペティトアに当たったがために音楽が壊されたり、酷い場合は声が壊されたりすることも実は少なくない。日本でもよくあることだが、声楽と器楽、ジャンル的にも人種的にも大きな隔たりができてしまう。指揮者&コレペティトアと歌手、全く同じことが言える。指揮者はこの場合オーケストラ(器楽的立場)の側になってしまう傾向にある。この場合、リードすべき立場にある指揮者&コレペティトアがもっと声楽の知識から歌手の立場までを理解し対応につとめる必要がある。この辺は世界中で未だ大きな問題である。


スコアリーディング
指揮科&コレペティツィオン科にいれば自動的についてくる基礎訓練である。内容としては、大抵の場合まずはハ音記号の楽譜を読む(弾く)ところから始まり、移調楽器の練習をして、編成の小さいもの(例えばトリオやクァルテット)からスコアを見ながらピアノで弾く訓練を、だんだんと編成が大きくなっていく。スコアを見て弾く場合、クァルテットならば四和音そのものだが、それ以上になっていくともちろん全部は弾けない。この場合ソプラノとバス、すなわち旋律と伴奏を拾い、後は内声を足して、その他の対旋律や装飾的なものを混ぜるために効果的にバランスよく拾って行くのである。この弾き方は前述のコレペティトアのピアノの弾き方そのものである。要は同じ作業である。ピアノの楽譜になっていると全部弾かねばとなりやすいが、スコアで見ると理解しやすいと思う。オペラのヴォーカルスコアは元々はオーケストラスコアだったものを無理やりピアノ譜にしたものである。これらの他に、初見の練習などをやることもある。スコアリーディングとはオーケストラスコアのみでなく、楽譜の読み方全般の訓練でもある。


楽曲分析
和声や対位法、管弦楽法、音楽形式など、あらゆる目線であらゆる楽曲を分析する。その訓練である。指揮科&コレペティツィオン科では当然重要なものである。作曲家はこれを作曲することに実用するわけであが、指揮者&コレペティトアは決して自分で曲を書くわけではないが、作曲家が何をどう考えて書いたかなどを理解し解釈することは必要不可欠である。この訓練は終わりがない。もちろん音楽理論の知識的な意味ではある程度の範囲や枠はあるかもしれないが、それを駆使してさらに音楽を深く…、となればキリがない話である。最後は解釈者(演奏者)に委ねられてしまうのかもしれないが、とにかく続けることが必要である。


オペラの知識と解釈
前記の続きの話になるが、楽譜的に分析、理解、解釈することはもちろん必要である。そしてオペラの場合ははっきりとしたドラマが存在する。題材、脚本があるのでまず内容は理解しないと話が始まらないが、それゆえに分かりやすくもある。そしてこれも深く追求するとキリがない。どの役がどう感じてこのアリアになったか、この重唱ではこう言ってるがこの役は本当はどうなのか、などの解釈は本当に奥が深い。歌手は基本この解釈をどの程度追及するかで、いわゆる楽曲分析的なことは指揮者&コレペティトアほどでは決してない。ゆえに、練習を進めていく中で楽曲分析で得たヒントを大いに使うのは結構だが、歌手と作業していく中では専らこのオペラのドラマに対する解釈と内容的な討論がメインとなる。当然コレペティトアはその辺を歌手以上に理解しておく必要がある。そしてこれこそがオペラ特有の醍醐味でもある。


語学
今更言うまでもなく最重要と言っていいネタである!オペラは言葉が一番大事と言われるほどである。歌手は当然言葉を扱うわけであるし、その歌手を導くコレペティトアはそれ以上を目指さねばならない。具体的に語学の何がどう必要なのか。ディクション、理解、会話力、大体こんなところであろう。ディクションとはオペラの場合主に発音的なことが中心になるが、正確に読むこと、正確に歌うこと、そして聞き手に正確に伝わること、この三段階である。しかし多くの指揮者&コレペティトアはこの過程の途中で脱落することが多い。というのも、正確に読む、ここまでは誰でも努力する。しかし次である。正確に歌う、ここからは声楽的分野に思いっきり食い込む。どういうことかと言うと、言葉の発音とは、話すのと歌うのとでは全然違う。なぜなら話すのと歌うのでは発声が全然違う。正確にきれいに話せたからと言って正確にきれいに歌えるわけではない。例えば、ドイツ人がドイツ語で歌っても何言ってるか分からないこともよくある。この歌う時の発音、これがもっと指揮者&コレペティトアは理解すべきである。もちろん、ほとんどのコレペティトアは、歌手がディクションを行い出来上がったものを聴いて確認ぐらいは当然していると思うが、しかしその発音を発声につなげる過程を指導できるコレペティトアはほとんどいない。稀にいる声楽家出身のコレペティトアと個人的に声楽を勉強した者ぐらいしか実践できていない。そういう意味で、前述の声楽の話の続きにもなるが、言葉と発声の関連性はもっと学ばれるべき。そして発声に関してもある程度知っておかねばならない。もちろんヴォイストレーナーではないが、ある程度の知識でもって行われるべき作業である。しかし、歌手によって声域によって発声のクセや特徴は違うので、あまり過剰に言いすぎてもいけない。話を語学に戻して、オペラに重要な言語はドイツ語、イタリア語、フランス語、そして英語、チェコ語、ロシア語といった感じである。できるに越したことはないから長い話だが、レパートリー開拓にも比例するので続けるしかない。それから、これらの実践を考えた場合、やはり言葉は多く話せるに越したことはないのだが、分かっておくべきことが一つある。というのは、言葉が話せる=オペラができる、というわけでは決してない。もちろんある程度できなければ意味はないのだが、大事なのは、その言葉で考える、話す、対話する、そういった感覚である。例えば我々日本人は日本語で物事を考えて日本語で発するわけだが、それを外国語で行った場合かなり感覚が違うことに気が付く。それがのちに語学力やコミュニケーション能力につながっていくわけだが、その感覚こそがオペラ歌手が舞台上で行う実践そのものである。これが一番大事と言っても過言ではない。この要素は、単に言葉が話せるだけよりもオペラの演奏においてはるかに重要である。もちろん話せた方がはるかにそれも早道ではあるが、しかし話せてもこのことを分かってなければ意味がない。そういったことを分かった上で、オペラをやりたいものは語学の習得に取り組むべきである。


リハーサルテクニック
指揮者がオーケストラや合唱、そしてもちろん歌手陣を導くように、当然コレペティトアも歌手陣を導かねばならない。曲の難易度や歌手の特徴(得意不得意)に対応して練習の仕方を考え組み立てる必要がある。先生や先輩、可能ならば尊敬する指揮者やコレペティトアの練習を見学するなどするといい。あるいは、現在師事している師匠のレッスン自体がおもしろければ、それをそのまま参考にもできる。そして当然それらを踏まえて、自分なりのプランを練り、可能な限り色々な歌手に対して実践すべきである。やり方や進め方について細々言い出すとキリがないが、最後は経験である。


上記の項目に対して重要と思われることをザッと書き上げてみた。何かしらの参考にして頂ければと思う。次回以降、色々なポイントを実践的にネタを交えながら説明していきたいと思う。