Der Korrepetitor

オペラ指揮者&コレペティトア・宮嶋秀郎がコレペティについて語るブログ

表記

コレペティトアの表記について。日本では以下のものをよう見る。


コレペティトール
コレペティトゥア


ほとんどの場合こう表記される。しかし、いずれも明らかに間違っている。まずこれはドイツ語であり、正式にはKorrepetitorである。日本語で書くのは確かに難しく限界があるが、ドイツ語の正確な発音を無理やり書くと、コレペティトア、もしくはコレペティートアが正確になる。要するに、tiの部分が少し長くなるわけである。


上記の2つだが、まず最後のトールが明らかにおかしい。torというのはドイツ語の場合トアと発音し、-ルとまくことはない。唯一あり得るのが歌唱表現の場合に語尾のrをまくと言うことだが、会話の中ではまず使わないし、そもそもその歌唱表現の発音自体が最近ほとんどなくなってきている。自分の知る限り、恐らく最近の指揮者やコレペティトアはこの歌唱表現を知らないと思う。自分も指揮科&コレペティ科ではそれをソ言えられたことがないし、それを知っている仲間も見たことがない。なぜ自分がそれを知っているかというと、日本で声楽科に在籍していたからである。


もう一つだが、torはトゥアとはさらになるはずがない。恐らくこれはフランス語のRepetituerから来ているものと思われる。要するに、ドイツ語とフランス語がごっちゃになったわけである。というわけで、すでに和製英語のごとく日本語にゆえの間違えであり、明らかに存在しえない単語である。変な話、現地人(この場合ドイツ&フランス語圏)出ない限り大体似たような発音をしたら通じることもちょくちょくあるが、しかしこれはどうしようもない間違えである。


これらの間違えが起こった理由として考えられるのが、まず日本語化したことのよる弊害、そして不確かな知識で呼んでしまったこと、大体この2つからではないかと思う。1つ目は明らかな日本語読みである。2つ目はフランス語の意識が感じられるが、そもそも日本のオペラ人の大半はドイツ語の正しい知識が少なく、イタリア語やフランス語のラテン語が好きな者が多い。その好みゆえに起こって来るというのも大いにあると思われる。


少し話は変わるが、似たような理由で間違った発音になっている音楽に関する発音は結構多い。少し有名な例を上げてみる。


GP(Generalprobe) → ゲネプロ → ゲーペー
Martinu → マルティヌー → マルチヌー


1つ目はゲネプロであるが、ゲネプロはドイツ語のゲネラルプローベを略した言い方。この時点で日本語的表現である。現地では略して言うことはない。そしてさらに日本人はそれをGPという文字をそのままドイツ語発音して、ゲーペーと言う。これはすでに日本のクラシック界全体にかなり浸透しているようだが、しかしかなり痛い間違えである。なぜなら、前述の通り現地では略さずゲネラルプローベとしか発音しないし、そもそも現地でGP(ゲーペー)とはGran Pause(グランパウゼ)のことを言う。とんでもない間違えというか不可能な話である。現地日本語的に行ってしまうと話が通じないどころか恥ずかしいかもしれない。


2つ目はチェコの有名な作曲家の名前だが、日本では一部でマルチヌーと発音されている。これはチェコ語を日本語に正式に置き換えた場合の発音と定義されているらしく、ゆえにその一部の者はこだわっているらしい。しかしこの定義の時点で、明らかに言語ではなく日本語意識であることがわかる。そして何より、現地人(チェコ人)はマルチヌーとは発音しない。自分はチェコを拠点に活動し多くのチェコ人のMartinuの発音を知ってるが、誰一人としてtiをチとは発音しない。人種や発音の問題等をどれだけ考慮したとしても明らかにあり得ない話である。


確かにヨーロッパ言語の発音は日本人には難しく色々な意味で限界があることは確かである。しかし現地の音楽をやるからにはできる限り正確に現地の人や物に敬意を持ち対応する姿勢は必要不可欠である。もちろん世界中誰でもその国の発音などのクセが出るのは仕方のないことだが、特に日本語のようにあまりにもかけ離れた音の世界に生きる者は、せめてもう少し近づく努力はした方がいいと思う。


オペラ人は特に発音が大事である。言うまでもなく言葉が商売道具である。楽器の演奏家にそれが必要ないわけでは決してない、音楽家は皆同じである。しかしオペラ人がまずやらねば仕方ないと思う。先陣を切って、指揮者&コレペティトアであろう。前述のように、ヨーロッパの指揮科&コレペティ科ですら発音についての指導がいまいち弱くなってきている。事実、自分も声楽の専門的経験と知識がなければ知らなかったであろう。しかし、その道を究めるべく貪欲に求めて学んでいけば、必ずこの程度のことには間もなく当たるはずである。